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ふらっと

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機動戦士ガンダム 流星の軌跡

                            MOBILE SUIT GUNDAM
                           THE locus of shootingstar

                              流星の軌跡



宇宙世紀0103、春。地球圏は、新生ネオジオン軍を率いたシャアの反乱による混乱から、ようやく復興を遂げていた。
 最初の隕石落としがもたらした地球環境へのダメージはいまなお残るものの、これといった内情不安も認められることはない。しかし地球圏の行き詰まりという現実に人々は気づき始めた。
 シャア・アズナブルことキャスバル・レム・ダイクンの行動は暴挙であることに違いはなかったが、ある意味で世論を動かした。それでも「シャアでさえ偉業は成し遂げられなかったのだ」という挫折感と、「アムロ・レイもすでにない」という失望が、コロニーと大地とを問わず漂い、人々の活力は停滞していた。
 民衆は英雄を欲していた。
 英雄の存在が平和との引き替えなくしてはあり得ないことを、人々は理解していたが、平和の格差を肌で感じてしまった人々にとって、戦争状態のないというだけ平和の日々は決して平穏ではなかったのだ。
 それは地球連邦内にも蔓延した空気であった。
 宇宙世紀0100年のジオン共和国自治権放棄による戦時終結宣言以来、平時訓練と定期巡回以外に、保有する兵装の運用は認められない。ここ数年、軍部に計上される年次予算をいかにマイナス査定とならぬように奔走することだけが、今の連邦の戦いといえば戦いであった。
 軍艦の建造はそれでも凍結され、モビルスーツにしても、恐竜的に巨大化した機体とその開発・運用コストが経済立て直し政策の前に、やり玉としてあげられた。
 連邦政府は苦肉の策として、軍部を大幅に組織改正し、構成比率の30%を火星圏開発に、さらに10%を木星圏資源開発に充てることとした。一方で、一年戦争時代に地球人口の大半が死滅したスペースコロニー群、サイドの再開発も動き出している。これにはジオン共和国側の国力も動員されている。
「火星圏にコロニー移住するようになったら、もう地球人じゃないぜ」
「だけど、一部の企業体はもう火星にとりついていて、レアメタルの採掘権利も連邦に取り付けているって話だ。地球圏の経済は奴らに握られてるようなもんだ」
「冗談だろ、おれたちゃ火星人に支配されてるってのかよ」
 このような新しい不安がささやかれはしたが、地球圏でさえ大地とスペースコロニーとの人権格差が長年続いていたし、月に居住し、職場を持つ者たちにはルナリアンという呼びならわしが定着してしまった。
 スペースコロニーで生まれ育ったスペースノイド世代にしてみれば、今さらという気分がないでもない。
 地球連邦の政策に対する反感意識は、民衆の心の中から完全に消し去られたわけではない。古来、イデオロギーが一つの波となって世界を包み込んだ時代は一度たりともないのだ。また、それを理想と掲げることも危険だ。視点を変えれば独裁政権を産み落とすことになる。
 かつてのエウーゴのような反地球連邦活動は、形と人派を変えつつ潜在している。その緊張の糸が切れかかっている時代でもあった。
 こうした微妙で複雑な情勢下でありながらも、地球圏は一時の平和の時間の中にある。 これから語られる物語は、ひとまず“戦”から解放された地球圏に起きた、人類にとっては未曾有の危機との直面のエピソードである。
 人々が「マフティー」なる反地球連邦組織の名前を初めて耳にする、ほんの直前の出来事だ。



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